味噌

昨日は先輩と一緒に10連休目に突入した後輩の家を訪ねた。

履歴書で住所を調べてから向かった家にはしかし誰もおらず、まあ事前に電話をかけても応答どころかコールバックもなかったので想定の範囲内の出来事ではあったが、会社には毎朝休みますって連絡してきてるんだから電話くらい出なよ~、という感じだし、とりあえずのところ病人なんだからなるべくお家には居なさい……と思った。お見舞いのお菓子と2人分の名刺を入れた紙袋を玄関のノブにかけて、先輩となんだかなあ、と言い合いながら会社に戻った。

会社を休むのは全然良い、というか体調の問題ならば仕方ないけど会社支給の携帯にかかってくるお客さんからの電話にも出ていないみたいだし、僕を含めた会社の人間からの連絡も黙殺しているようなので後輩の社内の評判はどんどん落ちている。「体調が本当に悪いなら悪いで、長く休むにしろもっとやりようがあるはず…」的なムードが会社の中にある。後輩自身の会社への出づらさもきっと日に日に増してきているんだろう…少々不憫ではあるけど自分で自分の首を絞めている感じもする。いや、でも。でもまだ引き返せるぞ後輩くん、いろんな意味で元気になってくれたら良い。あと出来たら電話に出て欲しい。

今日は日曜日で仕事は休みだけど月曜日の早朝に納品の必要な製品が遠方から届くので、昼過ぎの到着を待って運送会社の支店まで引き取りにいかねばならない。ダンボール30個分とのこと、会社の車を借りて家に帰って来てはいるけど果たしてそんなに荷物が載るのか。あと週明け1発目の仕事が早朝客先直行というのは率直に言ってすごく、こう、嫌だ。天丼が食べたい。

ドリア

後輩は今日も休み。

後輩の仕事は僕が引き継いだものばかりなので代わりに顧客対応をしている。今の後輩の状態についてどう思っているか上司に訊いてみると、結構どっしりと構えているというか、ここでダメになるならどこいってもダメだし、とりあえず待てるところまで待って、おれたちで一回バシっと姿勢を正してやろう、これからのあいつの為にも、というスタンスだった。流石に懐が深いなと思う。このままなしくずし的に辞める…としたらそれはもうもしかしたら仕方ないことなのかも…知れない…? みたいな感じで既に小さく諦念を抱いている自分も居たことに気づいて、あー、このままではいけないな、と思った。

痛み記録4 他

・歯医者さんへ4度目の通院。痛み記録と銘打ちながらも、かつての激痛は既になりを潜め、今のところ日常生活を送る分にはほぼ支障がない。ただ穴は開いているのでよく食べものが挟まるし、なんとなく舌でいじりたくなる。先生曰く「順調に快方には向かっているがまだ万全ではない」とのこと、完全に穴を塞ぐのは延期になってしまった。患部には薬を入れて仮詰めをしてあるのだけど、それが染み出してきているのか、ふとした拍子になんとなく口の中がクスリっぽくなる。食事がおいしくなくなるのでこれは困る。

・後輩が会社を休んでいる。最初はノロウィルスに罹患したとかで、あーそれは大変だーと思っただけだったけれど、流石にちょっと長い。心配になって昨晩電話をしたら存外に元気そうな声を聞けて、「明日はいきまーす」と言ってたのに、蓋を開けると今日も休み、土日を挟んで丸1週間の欠勤になる。この7連休の直前に3日病欠して2日出勤して、というのがあったこともあり、社内ではこのままフェイドアウト? とか何とか噂されている。僕はまさかそんな……という気持ちだったのだけど、今日の後輩は電話にも出ない。仕事でそんな悩んでる風でもなかったので、いやまあもちろん万事順調ってわけでもなかったけど、それでもマジかーっていうか、なんでーって思いが強い。会社には毎朝連絡をしてきているらしいからそれは救いというかなんというか。

そもそも社会人1年目で会社楽しい! ヤッフー! なんて気持ちになるはずがないと僕は思う。僕自身とりあえずの要領を掴んである程度自信を持って仕事に取り組めるようになったのはごく最近のことだし、正直今の業界へは興味に満ち満ちて飛び込んだわけではなかったから、最初の頃はちょっとこれ人生として正しいのか否か…的な問題にまで踏み込んで悩んだこともあった。

とりあえず自活する術として今の会社で何とかやっていくしかなく(あと内定後に半年留年くらった僕を拾ってくれた会社への恩義もあって)、そうこうしているうちに何かしら、ゆっくり会社の中でのポジションというか、居場所が定まってきた、という感じである。何が言いたいかというと今の段階で会社を辞めることを考えるのはちょっと早すぎるしもったいないんじゃないか後輩くん……ということ、合う合わないの判断はとりあえずまだ保留できる時間帯だぞ、ということだ。

しんどさを感じるポイントは人それぞれだから何も言えない部分があるけど、というかこの話は完全に今後輩が精神的な理由で会社を休んでることが前提になっているけど、とにかくちょっと1回ちゃんと話したい。社会人としての色々が面倒くさくなったかな。もしそうだとしたらその気持ちはすごく良く判る。けど、こういう他人が使う「あーそれわかるわかるー」っていうのがすごく白々しく聞こえるときがあるっていうのも、またよく判るから、言葉を選ぶのが難しい、と思う。後輩、明日は来るだろうか、でもこれ来づらいだろうなあ。でもなー。

くしゃみ

この部屋に住み始めてからもうすぐ丸3年になる。

入居当初設置されていたエアコンがガスで動く骨董品で、1年目の冬にいきなり動かなくなったため、すぐ新しいものに替えてもらった。それから今まで2年ほど、冷房も暖房も問題なく作動していたのだけど、最近になって清掃ランプが四六時中点滅するようになった。部屋の明かりを消しても点滅が目についてなかなか眠れないので困る。外側のフィルターの汚れを掃除機で吸ってもランプは消えず、どうしたものかな、と思っていたら、エアコンの上からナイロン袋に入った分厚い、外側のフィルターとはまた別の新しいフィルターが出てきた。

説明書を確かめてみると(最初からそうすればよかったのだけど)、その分厚いのは内部フィルターという、エアコン設置の際に取り付けておかれるべき大事な部品で、これ多分大家さんがちゃんと説明書読んでなくていざ取り付けてみて部品がなんか余っちゃったけどよく分かんないからこっそりエアコンの上に隠したパターンのやつでは……? 脱臭と除菌を司るフィルターが無かったらエアコンが汚れるのも当然だったわけだ。

ただ生活を営んでいるだけでゴミは増えるしエアコンのフィルターは汚れるし髪は伸びるしでどんどん財布からお金が減っていく。なんというか、ただの生活はただではないな、と最近思う。

急にボールが来たので

先日上司が1年越しで進めてきたすごくでかい商談にとどめを刺してこいというお達しがあったので、戦々恐々としながらも何度か客先に出向いて契約をもらって来た。毎回会社を出る前は僕が出しゃばっているせいで破談なんてことになったら本当にもうどうしようヤバイヤバイという気持ちだったけれど、なんとかなったので本当に良かった。先方から「それでは今回から御社とお仕事をさせて頂きます。今後ともよろしく」という電話を受けた後すぐ、僕の後ろで通話を聞いていた上司とがっちり握手してしまった。なんか興奮して泣きそうになっている自分がいて、今までどんだけ気負っていたんだろうと思った。

昨日はその褒美とは言わないけれど、上司の家に招かれてご相伴に預かった。ありがたい話だ。正直ゴール自体はほぼがら空きだったから後はシュートするだけみたいな感じだったけれど、上司はこれはお前の手柄だぞと言ってくれるし、せっかくなので得点は得点、と思うことにした。とりあえず契約後の仕事が山積みなので、目の前のことをちゃんとしていきたい。やるべきことが明確なのでとても良い。

内容がなんだか自慢くさくなってしまったけれど清少納言の例に照らすと天狗っぽさは日記の本質といえなくもないのでたまには良し。たまには。

痛み記録3

神経を抜いた歯の根元の痛みは沈静化したものの、それに隣接する前歯に再び北風が吹くようになって、時間が経つにつれ熱をもち脈動し始めた。確かに鼓動を感じるしその拍子も取れるのに、肝心の患部は歯なので触ってみても指には何も感じず変な感じ、頭の中に不快感と変拍子の痛みだけがあった。

土曜日は会社の新年会があって幹事をしたのだけど、痛みのピークが宴会のさなかに来たために飲食が全く出来ず、「痛み」と「宴会の進行状況」の2つに半分ずつ思考を支配されていた。翌日曜日には歯茎の腫れも歯の中の痛みも嘘みたいに消えていて、咬合に若干の違和感があったけれど台風一過的な趣きを感じた。

3度目の通院となった今日は初回・2回目とはまた別の先生だった。過去2回でけっこうバリバリ施術してもらったはず、こうも長く痛むものなのかどうなのか……という不安でいっぱいだったから、治療の後たくさん質問させてもらった。「神経を抜いた方は奥部に若干の炎症が残っているため消毒と消炎を続けて経過観察。じきに直る」。「新たに痛みだした前歯は神経をとった方の歯が動いたため圧迫されていて、過去の治療痕もあってかなり痛んだだろうけれど、神経自体は既に自然死しているようなので遠慮なしにかなり削った。今回は薬を詰めて次回塞ぐ」とのこと、宴会の日の猛烈な痛みは神経の最後の断末魔だったのではないかと思う。日曜の朝感じた趣きは死の静寂だったのだ。

「レントゲン見ていただくと分かりますけど下の歯と隣の歯が密着してるせいで、この歯には全く“遊び”がなくなってしまったんですねー」

遊びなし、働き詰めはさぞやつらかったことだろう、死んでしまうのも頷ける。人生と同じ。遊べるときに遊ぼう。

パントン

ときおりお客さんから「○○って会社の××っていう製品にちょっとだけ使われているあの赤、あの褪せた赤色をここに使いたい!」みたいな要望をもらうことがある。その度我ら営業部隊は外回りの途中、顧客の望むニッチな色を確かめにコンビニやスーパーに立ち寄るわけだけど、今日僕に課せられたのは「ある製菓会社が出しているたまごドーナツの袋に使われている淡い黄色」の採集だった。

スーパーを2件はしごしてお菓子の棚のそれらしき場所を探しても目当ての製品はなかった。2件目には店員さんにも尋ねて一緒に探してもらったけれど、あいにく品切れとのこと。僕の知らないうちにたまごドーナツブームが来ていたみたいだ。上司から色採集の指令を受けた際、「目標のたまごドーナツがなければ△△スーパーのプライベートブランドのスポンジの包みでも可。同じ色だから」と言われていたことを思い出し、レジのすぐ近くにぶら下がっていたスポンジを手にとった。

「(ドーナツよりスポンジのが高いけど)じゃあこれでいいかー」と呟いたのを、一緒にドーナツを探してくれていた店員さんに聞かれてすごく怪訝な顔をされたけれど、いや違うんです、たまごドーナツもスポンジも中身は別に要らなくてですね、このね、色。この黄色をね、僕は会社に持って帰らないといけないんですえっ? 違いますドーナツの代わりにスポンジを食べるとかそういうんじゃないです。