パントン

ときおりお客さんから「○○って会社の××っていう製品にちょっとだけ使われているあの赤、あの褪せた赤色をここに使いたい!」みたいな要望をもらうことがある。その度我ら営業部隊は外回りの途中、顧客の望むニッチな色を確かめにコンビニやスーパーに立ち寄るわけだけど、今日僕に課せられたのは「ある製菓会社が出しているたまごドーナツの袋に使われている淡い黄色」の採集だった。

スーパーを2件はしごしてお菓子の棚のそれらしき場所を探しても目当ての製品はなかった。2件目には店員さんにも尋ねて一緒に探してもらったけれど、あいにく品切れとのこと。僕の知らないうちにたまごドーナツブームが来ていたみたいだ。上司から色採集の指令を受けた際、「目標のたまごドーナツがなければ△△スーパーのプライベートブランドのスポンジの包みでも可。同じ色だから」と言われていたことを思い出し、レジのすぐ近くにぶら下がっていたスポンジを手にとった。

「(ドーナツよりスポンジのが高いけど)じゃあこれでいいかー」と呟いたのを、一緒にドーナツを探してくれていた店員さんに聞かれてすごく怪訝な顔をされたけれど、いや違うんです、たまごドーナツもスポンジも中身は別に要らなくてですね、このね、色。この黄色をね、僕は会社に持って帰らないといけないんですえっ? 違いますドーナツの代わりにスポンジを食べるとかそういうんじゃないです。