細部に宿る

今年の新卒枠で営業部に入ってきたのは専門学校卒の21歳Kくん1人だけで、彼は僕にとって部内唯一の後輩にあたり、僕は一応その教育係ということになっている。21歳といったら僕の4つ下の妹と同い年なのでちょっとした隔世の感があるのは否めないのだけれど、それにしても、と思ってしまうくらいKくんは日本語が拙くて、僕は彼の文章を見るたびにあー、という気持ちになる。

「A社はB社よりも規模の小さな会社ではあるが製品の種類が豊富で、大手デパートや量販店でも、必ず売り場に一定以上の棚を確保できている」

これをKくんに言わせる、というか書かせると

「A社はB社より小さいが、A社はたくさん商品を出していて、大手デパートや量販店でも必ず見かけるほど、A社の商品は多い」になる。

会議の議事録をとるのは新人の仕事なのだけれど全編通してこんな感じの文が続く。日本語としては間違っていないけれどスマートでない、この、如何ともしがたいモヤモヤ感、ムズムズ感を誰にも相談出来ずにいる。「ちょっとこの文章すげー頭悪そうだから直してよ」と言っても一朝一夕で直せるようなものではないし、そもそもKくんはそういう文章を大真面目に書いているのでどこがいけないのか分からない。問題の根が深い。

課長から「Kは作文が苦手っぽいから社外提出用と社内回覧用の文章は一旦目を通してあげて」と頼まれたのがこの悩みの発端なのだけれど、社外提出用と社内回覧用の文章っていったらもうKくんの作る書類全部だ。そんで全部の文章がこれだ。課長とKくんが結託して僕の気を狂わせようとしているのかもしれない。

あともしかしたら僕が神経質過ぎるのかもしれない。文章はそれが他人の目に触れる可能性がある以上第三者・読み手を意識して書かれるべきであって一定以上の明瞭さが確保されていなければいけないし明瞭さを突き詰めるにはある種の美意識が必要不可欠である…というのが僕の持論なのだけど会社の文章にそれを求めるのは行きすぎているのかもしれない。また僕が僕の中で設定しているまとまった文章とはかくあるべし、というようなハードルが高すぎるのかもしれない。Kくんに文章に対する美意識の有無を問うのはちょっと違う気がする、そして問うたとしても「??」という反応が返ってくるのは目に見えているので別の角度から尋ねてみた。「Kくん新聞とか小説とかどれくらい読む?」

「あー読まないですね」

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