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特に忙しかったわけではないのに会社を出たのは9時過ぎだった。日用品と食材の買い物をして帰って、走りに出るにはちょっと遅いな、と思って申し訳程度に腕立て伏せをしてからシャワーを浴びた。スパゲティにレトルトのソースをかけて、昨日作ったチンゲン菜の卵とじと一緒に食べた。

スパゲティが茹で上がる合間に煙草を吸いに外に出ると、同じアパートの隣の隣の部屋の住人、Kくんが野球のバットをぶんぶん振っていた。このKくんとは去年の夏に一度酔っぱらって部屋にお邪魔させてもらって以来、顔を合わせれば挨拶をする程度の仲だ。昨日も実家からもらった野菜をお裾分けした。

お互い朝早いですよね、とか会社で働くのは大変そうですね(彼は近くの病院で看護師をしている)とか、煙草1本が燃える間に他愛のない話をした。Kくんは連休で目に見えて太ったから慌てて素振りを始めたとのこと、肥満への危機感は以前から感じていて、ここ最近は通勤も自転車か徒歩で頑張っているらしい。

身体に脂肪がついていくことへの恐怖は僕も身にしみているから、その、急にこれはやばいな、と思い立って運動を始める感覚にはとても共感した。話しながらも豪快なスイングを止めないKくんを見ながら、今日の運動が腕立てだけだったのがちょっと後ろめたい気持ちになった。明日は頑張ろう、というのは負けた気になるから寝る前にちょっとだけ腹筋してお茶を濁す。