エウレカ

家に帰ると電気が止まっていた。

このところ仕事も順調で生活にも張りが出てきたし言うことなし、と思っていた矢先にこれだ。ままならない。携帯電話の液晶の明かりを頼りに振込用紙をポストから引っぱり出して最寄りのコンビニに向かった。支払いの時、店員のお姉さんに「電気止まったことあります?」と尋ねたらすごく笑ってくれた。「えっ止まったんですか?」「家に帰ったら真っ暗でした」「復旧に時間かかるんじゃないですか?」「1時間だそうです」「長いですね」「今日中に直るだけでありがたいです」「家は近くなんですか?」「すぐ近くです」「そうですかー頑張ってくださいね。良かったら立ち読みしてってください!」「ありがとうございます……」。わざわざ言及するまでもないけれど、まあ見事に天使だった。

可愛い女の子とこれだけ話せたら電気が止まってもお釣りがくる。多分店員さんは僕より年下だったけれど、甲子園の球児たちがいくつになっても年上に感じるように、ある種のお姉さん性は普遍的なものだと思う。僕が70歳になってもコンビニで働く若い女の子は永遠に「お姉さん」なのだ。あの子の家の電気がずっと止まることがないように祈る。

家に帰り、何もすることがなかったので暗闇の中で延々筋トレをしていた。体感でおよそ2時間半くらい待ってようやくドアのチャイムが鳴り、作業員に電力復旧の旨を伝えられた。暗闇の中の時間の流れは普通の倍以上遅く感じる。電力会社の人にはいきなり呼び出した形になって申し訳なかったけれど、背に腹は代えられない。あと真っ暗な部屋から汗だくの男が息を切らしながら現れた形になったのでかなり気味が悪かったと思う。これは全面的に僕に非がある(もちろん電気が止まったことも僕に全ての非があるけれど)。

光の中で飲むビールはかくも美味い。明日は土曜日だけど営業会議がある。家の近くで天使が働いている。蛍光灯より明るいその事実が僕を奮い立たせる。